【tdr0541】「ファインディング・ニモ」はスティーブ・ジョブズの指摘で完成度が上がった
ピクサー・アニメーション・スタジオが手掛けるフルCGアニメーションの制作には、数年単位の製作期間と莫大な資金が必要です。
出来上がった作品を見ているだけでは分からないかと思いますが、リアリティ溢れる動きにするため1コマ1コマ動きを変え、その微調整にかかる時間は数分~数時間。
1秒に必要なコマ数は24コマですから、1コマの調整に1時間ずつかかったとしたら1秒製作するのに一日費やすなんてこともあるわけです。
それだけ地道でコツコツとした作業を続けて、「トイ・ストーリー」などの名作を世に排出してきたのです。
さて、ピクサーではある程度作品が仕上がると、調整を兼ねて関係者を集めた試写会が行われます。この試写会で問題点をチェック、改修が必要な場所があれば指摘し、より良い作品へと固められます。
このとき、すぐにでも修正がきくような改修なら問題ないのですが、すぐどころか、公開延期レベルの改修を指示してきた人がいました。
その人の名は「スティーブ・ジョブズ」。ピクサー設立者であり、最高経営責任者です。彼が指摘したのは「ファインディング・ニモ」の背景にある海藻の動きでした。
どうにも、その海藻の動きがぎこちなく、リアルさからかけ離れていたのです。
しかし、改善を求められたスタッフたちは、「それは無理だ」と言いました。何故なら、全ての海藻の動きを修正するには1年以上もの期間が必要とされたため。修正するには公開日を延期するか、間に合わせるために人員を増やすかしかありません。
そうなれば多額の費用が動くことにもなります。
そして、何より、「背景にそこまで注視しなくてもいいのでは?」という考えがスタッフたちの間にはありました。これらの理由から「改善は現実的でない」とスタッフたちは判断したのです。
ただ、ジョブズは黙っていませんでした。
「ファインディング・ニモは今後何十年もの間、見られる作品だ。本当にこの海藻で後悔しないのか?コストも公開日も問題ない。より良い作品に仕上げることに注力してほしい」と苦言を呈したのです。
世に残る作品に妥協せず、そのときに出来る最善を尽くすべき。そうしなければ後悔することになる・・・そんなメッセージのこもったジョブズの言葉に、スタッフたちは気付かされたのでした。
そうして、「ファインディング・ニモ」は、海中の表現力が素晴らしいと絶賛される作品になったわけです。